約束がなくても、待って居ていいですか。
月がない夜でも、来てくれますか。
確かな名すらないこの衝動を、受け止めてくれますか。
***
「――――何、してるのよ」
「――――何も。強いて言うならば、貴女を待っていました」
「月がないのに?」
「ええ、月がないから……無性に貴女に逢いたくて」
「あたしは月じゃないわよ」
「そうですね。……むしろ、月は僕自身。いつか、貴女にそう言われたことがありましたね」
「それで?……そのお月様が、何しに来たの」
「だから、貴女に逢いに。……空に月がなくて、貴女が寂しく思わないように」
「随分と傲慢なお月様ね。……あたしは寂しくなんてないわ」
「ええ、そうですね。……知っていますよ」
「空に月がないからって、嘆いたりしないわ」
「ええ、そうでしょうとも」
「ただ――」
「……ただ?」
「月を想うことはあるかもしれないわ」
「…………それだけですか?」
「焦がれることも、あるかもしれない」
「……それから?」
「…………来る筈のない待ち人を、待つ、かも」
「……そうですか」
――新月の夜、星屑の粉が降り注ぐ湖畔にて、音もなき宵に、人影ふたつ。
「待ち人は、来そうですか?」
「わからないわ」
「約束は、していますか?」
「してないわ」
「じゃぁ、何故……待っているんですか?」
「…………わからない……から」
――新月の夜、闇は深く、湖畔の揺らぎは深淵のごとく、静寂の宵に、重なる人影。
「……月は、こんなこと、しないわ」
「ええ……そうでしょうね」
「月は、地に、降りて来たりなんて……しないもの」
「ええ……無理でしょうね」
「待ち人は、来ない、筈、なんだもの――――」
「…………」
「では、貴女は、何故此処に?」そう問うた僕に、貴女はひとすじの涙で応えた。
かける言葉も見つからず、僕は貴女に口づけた。
***
約束がなくても、待っていてください。
月がない夜でも、来てください。
確かな名すらないこの衝動を、受け止めて欲しいのです。
君待つ宵。
君を、待つ、宵。
end.
【うたかた。】のともたろすさまの暑中見舞いSSを
フリーのお言葉に甘えて頂いてまいりましたv
幻想的な絵を見ているかのような
素敵な雰囲気が漂うSSにウットリですvv
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